梨花ちゃんは塾の先生に恋していた。だけど、告白とかする勇気がない。どうしても告白できない。禁断の恋だからさ。
「先生あのね……」
「なんだい梨花ちゃん。真剣な顔しちゃって」
「な、何でもないわ」
「変なの。顔が真っ赤だよ」
梨花ちゃんはなんであたし女子中学生なのかなあと悔しく思う。もしあたしが大人の女なら簡単に告白できるのに、と。
梨花ちゃんは竹刀で素振りをする。邪念をふり払わないと勉強とか部活ができない。
「先生好き!先生好き!先生好き!」
野良犬が不気味に吠えた。「わおおおおおおん」
ところで、ある日。先生の、中間テスト対策ノルマである。
まず、理科。化学式。化学反応式。酸化。還元。元素記号。
国語。アイスプラネット。枕草子。谷川俊太郎。
英語。過去形。未来形。callとshowの語順。
数学。多項式の計算。等式の変形。文字式の利用。
社会。人口爆発。現代の産業構造。
先生は38だが、未だにアルバイトである。塾のアルバイトだけだと生活が苦しいので、supermarketのアルバイトもしてる。
明日のsupermarketの仕事がすごく気になるが(棚卸しが近いので、ややこしい仕事が山積みなのである)、まずは今日の塾仕事だと先生は思う。順番順番。
いや、その前に小説だなぁと先生は思う。先生はプロ作家を目指してるのだ。アルバイトだけだと生活がしんどい。早く小説を所得にしないと自殺してしまうぞ。
あまりに低賃金で、苦しくて苦しくて切なくてやるせなくてブルーで、先生はこれはいかんと、木刀で素振りをする。
「梨花ちゃん!梨花ちゃん!梨花ちゃん!」
野良犬が不気味に吠えた。「わおおおおおん」