自分以上に誰かを愛することを私は知らない。
そんな惨めな恋愛をしようとも思わない。
ただ、その反面してみたいとも思う。
思う存分相手を想って、欲のない、相手がここに存在している事だけを幸せと思えるそんな恋愛がしてみたかった。
たとえ、そこに涙しかなかったとしても…
煙草の煙が静かに天井を昇っていくのを静かに眺めていた。
私は、彼の吸う煙草の煙をこうして眺めることが好きだった。
そして、彼がこの沈黙を破る言葉を探していた。
「別れよう」
きっと彼はそう、告げるのだろうと根拠もなく考えた。
彼は、煙草をギリギリまで吸う人だった。
今日もギリギリまで煙草を吸っている。
そして、それを綺麗に煙を吐いた。
「別れよう」
同時に彼が言った。
私は、彼の目を見て頷くことが精一杯の答えだった。
彼もそれを知って、静かに頷いた。
「理由は聞かないから」
ささやかな抵抗だった。
私は別れる理由を知っていた。彼も私が理由を知っていることを知っていた。
「ありがとう」
そう言って、彼は静かに出て行った。
玄関の扉が静かに閉まる音がした。