「じゃ、余裕ができたら顔見せろよ」
「うん… ゴメンね〜っ、忙しい時に来れなくてさぁ」
「いや、俺らも時間作って遊びに行くからさ、そん時は案内バッチリ頼むぞ?」
「うん♪ 任せて」
俺、倉沢諒司は品川恵利花に『学園祭の準備でちょっとの間休む』と聞かされたばかりだ。
まァ、オーナーの手島美和からお店を任されているとはいえ、見習いマネージャーの俺。
まさか当日店を放ったらかしという訳にもいかない為、オーナーの美和に話だけ伝える予定でいた所、たまたま本人が顔を出してきた。
一応日程を伝え終わった後、美和が思いがけない提案をしてきた。
「あら、じゃあその日は臨時休業でいいわ。
いつもみんな頑張ってくれてるから、たまにはお休みにしたら?」
「…本当ですか?」
「ウフフ、…その日は必ず『何か』が起こるわ」
「え?何かって一体…」
手島美和は、例の意地悪そうな笑みを浮かべるだけで答えてくれない。
…このパターン、はっきり言って、想像もつかない様な事件が起こるのでは?…と一抹の不安が頭をよぎる。
ところで、エリカの抜ける期間は友人の九里(くのり)真紀がカバーしてくれる事になった。
真紀はおっとりした外見に似合わず、テキパキ効率良く仕事を進めていくため、元気一杯に駆け回る小坂雛と協力し合って見事にオーダーをこなしていった。
女神は不在でも、いわゆる『天使の加護』があるという訳だ。
そう云えばエリカ達が加わった頃から、常連のお客様たちの間で次々とカップルが誕生している。
地元のタウン誌でも「恋人の見つかるお店」として記事になったみたいだし…
(女神フローリアのご利益ってやつか?)
そんな事を思いながら、俺はひたすら接客に追われていた。