世の中には、赤い糸で結ばれた相手が存在するというが、本当だろうか?
陽子は、窓辺のソファーにもたれながら、考えていた。
勢いで結婚した彼と、同居しはじめて2ヶ月経つ。
毎日のお決まりのキスと抱擁。毎日、食卓を共にして。
最初は、もっと新鮮味があったと思う。お互いにドキドキしていた筈だ。
だが、最近、何かが違うのだ。
高校の同窓会のお知らせが、机の文書に混じって、置いてある。
その手紙が届いた時に、思い浮かんだのは、同級生の弘のことだった。
付き合っていたが、卒業後の進路がばらばらになり、別れたのだった。風の噂で、結婚して子供も生まれたと聞いていた。
昔の思い出。ときめき。淡い記憶。
そう思っていたが、また彼と話がしてみたいと感じた。また会って話せば、お互いの近況を報告しあって、それで終わりだが、それでも良いのだ。
昔感じていた安心感が、陽子には、欲しかった。
同窓会には、友人と一緒に行くことになった。
「陽子、お待たせ。今日は弘君と再会できるし、楽しみだね!」クラスで一番仲良しだった美和子が笑った。
「でも、新婚さんだから、そうでもないかな?とにかく、遅れるから急ごう。」私の遅刻癖は、相変わらずだった。
始めは、彼がどこにいるかそんなに意識していなかったが、彼は昔よりも格好よくなっていてその会場では、目立っていた。
「へー、あれって弘君?随分変わったね。話して来たら?」美和子に進められたが、気恥ずかしかった。
今更、何を話せばいいかわからなかった。
そうして、昔の女友達と話していると、グラスを運ぶ男性が陽子にぶつかった。
「あ、…すいません。…陽子?」
目を丸くして目の前に立っているのは、弘だった。
「久しぶり!元気だった?あれから随分経つよね。俺、結婚したんだ。子供もいるよ。」
よくありがちな会話だった。しかし、陽子には長い間止まっていた時計の針が、再び動き出した感覚がして嬉しかった。
「へー。良かったね。私も、実はね、…。」言いかけたが、やめた。
最近、配偶者にときめきが薄れてきたことを、彼に話せば、どうにかなるの?
私は、いったい何を期待しているの?彼は、もうとっくに昔を忘れているのに…。
バカな私。…そう思って会場を出ようとして陽子は驚いた。
弘が出口の付近で、陽子のことを待っていたのだ。
「陽子、俺、ずっとお前のこと気にかけていたんだぜ。今日会えて嬉しかったよ。…今から、少し時間ある?無理には誘わないけど…。」
夫に対する後ろめたい気持ちがあっていいはずなのに、今、弘と話したい気持ちの方が、先走っていた。
「うん、少しだけね。」
[続く]