「陽子、何かあったの?さっきから、うわの空だよ。」
陽子の夫、俊樹は、鋭いところがあった。
「ううん。なんでもない。ちょっと、昨日の同窓会で疲れただけよ。それより、今日のサンドイッチ美味しかった?張り切って作ったんだけど?」
「美味しかったよ。じゃ、行ってくるよ。浮気、するんじゃあないぞ!」
冗談めかして、俊樹は、言ったが、陽子は、胸の奥でチクリとした痛みを感じながら、
「なあに言ってるの。もう!!いいから早くいってらっしゃい。」と、笑顔でごまかした。
この頃、俊樹が、会社に行っている間、彼が傍にいない寂しさ
をあまり感じなくなっていた。
一緒に暮らし始めた頃は、彼の方も、帰るなり「会いたかったよ。」と言ってくれていたが、それも、慣れの為か、口に出なくなった。
そんなことを、昼食後、ぼんやりと考えていたその時、電話の音が響いた。着信を見ると、弘の名前だった。
「よっ!陽子。元気か?俺、今、仕事で陽子の家の近くなんだ。
良かったら、会わない?時間無い?」
どことなく、断り辛い誘い方は、昔のままだった。
「いいよ。少しくらいなら。どうせ、暇だしね。」
今の寂しさを埋めてくれるのは、弘かもしれない。陽子には、そう思えた。
結婚当初の、満たされた心は、どこへ行ったのだろうか。そんなことを今更考えてもどうしようもない。花火のような生き方、つまり、太く短く生きる生き方、それが一番いい。そんな高校の時に習った言葉を、陽子は思い出していた。
[続く]