スポーツとは互いの合意の元でルールを設定し、勝敗を競うものである。
ならば恋愛もスポーツと通ずるものがあると見なしても良い。
ゆえに、僕はいま、彼女とスポーツをしているのだと、表現しても差し支えが無いわけだった。
僕と彼女は、互いに見つめあい、相手の挙動言動に気を配り、その端々から思考を読みとろうとしていた。
また、常に相手の動向に関心をよせ、それが自分の理想に叶うように、誘導もしていく。
そんな恋愛関係初期にいま、僕と彼女はいた。
この状態は、誇るべきものだと、僕は思う。
いい試合だ。
が、これが関係中期後期になると、相手の観察が疎かになっていく。不可抗力と言い訳に塗れていく。
変わりゆく相手の事など無視して昔の情報で作ったステレオタイプを使って、相手に接するのは、身勝手な欲望を発散させているだけ。
そして、それは避けられないものなのだと予感出来てしまうのが、虚しい。
近づいていけばいくほど、相手を理解した気になればなるほど、心は離れていくんだろう。
もしかしたら、今が一番幸せな時期かもしれない……。
僕は、これをスーパー鮮魚コーナーの鮑を見ながら夢想した。