総てが凍り付くような冬。行く手を阻むよう雲の層。雪に覆われた無人の校舎。点滅する蛍光灯。薄暗い廊下。ほの赤いランプが、ぼうっと浮かび上がっている。
そんな情景は、何かが終わってしまうには、いかにも丁度いいもので。
だから君は、独りで学校の廊下を走っていた。
全身汗だくで、吐息も荒く、足を懸命に動かして、必死に何かを救おうとしていた。
何を?
それは、君にも分からない。
それこそ、誰にも。この世界の、どんな存在にも。 しかし、君は走らざるをえなかった。
救わなきゃならないモノがあるなら、理由なんていらない。
その思いが君を何処までも走らせる。
―――ところで。君たちの汗が廊下の窓を曇らせている。空気中にあった生徒たちの汗や唾が、青春の残滓として張りついたものだ。
汚い?
でも、それだって、間違いなく君たちのものだ。
君たちの、青春だ。
君たちは無意識でその痕跡を残している。
いつも、どこでも。
どんな記憶、記録が消失しても、その事実だけは永遠に存在しつづける。
君たち自身が忘れてしまったとしても、孤独に。
過去からいつまでも、君たちを見つめている――。