「弘。あのね…。」
陽子は、言うまいとしていた言葉を、伝えようとした。
(私が好きなのは、弘…。)
玄関のチャイムが鳴り響いたのは、その時だった。
「弘君。旦那が帰って来たみたい。どうしよう!」あたふたする陽子をわきに、弘は冷静だった。
「ちゃんと誤魔化すから大丈夫☆」
「ただいま、陽子。…お客さん?」
説明できる筈のない陽子は、なんとか繕おうとしていたが、
「ご主人ですか?僕、ジムのトレーナーです。陽子さん、気分が悪くなったので送って来ました。良くなりましたが、大事を取って少し寝かせてあげてください。
それでは、どうもお邪魔しました。」
俊樹は、何かおかしな感覚を受けたが、責め立てたりはしなかった。
むしろ、何事もない雰囲気を装いこう言った。
「そうでしたか。うちの陽子が迷惑をおかけして申し訳ありません。お忙しくありませんでしたか?」
しかし、俊樹の眼差しには、敵意の破片が散りばめられていた。
「こちらこそ、お忙しいところお邪魔してしまいまして…。本当に、お邪魔しました。」
弘は、そう言い残すと、足早に去って行ったのだった。
(ひ…弘君…。)
陽子の心の中は、乱れていた。
[続く]