その長方形の箱は全体が黒く、ところどころに赤い紋様や文字のようなものが装飾されていた。
昨日この箱を開けなかったのは、村人が起き出す時間だったのと、箱が不気味な雰囲気を纏っていたためである。
魔物がうようよいるご時世だ。箱の中に怪物がいるかもしれない。
とは思うが、好奇心には勝てない。
ゼシルは持っている鉈で箱をつついてみる。コンコンという金属音はするが、なにも起きない。
「宝物だったらいくらで売れるかな」
恐怖心を打ち消すように大きめの声で独り言を言う。
「よし」
高鳴る鼓動を抑えつつ、箱の縁に手をつける。
が、びくともしない。鍵は着いていないのに、蓋が上にも横にも動かない。
「なんだこれ、ハズレかよ…」
箱を諦め、苛立ちに任せて箱を蹴った。すると…。
『我ガ眠リヲ妨ゲル者ハ誰カ…』
頭の中に直接、体がゾッとするような声が響いた…。