◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ #? 異世界へ。
今日も特に何も起こらな
かった。
西宮高校2年B組の俺・峯坂
理緒はいつも通り学校から
の帰宅後パソコンをいじっ
ていた。
ほとんど引きこもり同然の
生活を送っているのには理
由があった。
俺だって好きでこんなだら
しない生活をしている訳で
はない。あの一件から何も
かもやる気が出せなくなり
生きている意味すら一晩中
考えた。
それは俺の幼なじみ・吉木
野恋夏が大きく関わってい
た。
それは三年前になる。
休みの日、いつも通り漫画
を読んでいたら電話がかか
ってきた。
その相手は恋夏で今週の週
末何処か出かけないかとい
う内容だった。
そんな話を長々と話してい
たら突然車のブレーキ音の
様な音が電話越しに聞こえ
た。そして恋夏の小さな悲
鳴が聞こえて電話は途切れ
た。不思議に思い何回も電
話をかけたが結局恋夏の声
を聞けず次に恋夏の話が出
たのは訃報の話だった。ち
ょうど俺達が電話している
時信号無視したトラックが
突っ込んできて接触。その
まま恋夏は息を引き取った
そんな事があり、今の俺は
見事に不登校、引きこもり
になり、なんとか学校も行
くようになったが未だに引
きこもりがちなのだ。
だから家に居るのがほとん
どだしパソコンといつもに
らめっこ状態である。
「はぁ、そろそろ飯にするかな」
熱くなったパソコンを閉じ
てため息を吐く。
時計を一瞥すると午後6時
半。気付かぬ間にそんなに
経っていたのか。
確かにほおっておけば一日
中パソコンをいじっている
俺からしては途中に時計を
気にするなんて珍しい事だ
。
席を立ってリビングに行こ
うとすると突如携帯が震え
た。見るとメールが来てい
た。
「ん?誰からだ…?」
普段あまりメールは来ない
ので見当もつかなかった。
携帯をとって差出人を見て
ギョッとした。
「え…な、んで……?」
差出人を見ると普通ならあ
り得ない人の名前が書かれ
ていた。
「何で恋夏から…!?」
その差出人は三年前に亡く
なった恋夏からだった。お
かしな事に戸惑いつつ半分
好奇心でそのメールを開い
てしまった。
「…っ!?何だコレ…?」
その字は文字化けして読め
なかったが下にURLが貼ら
れていた。正直見たくはな
かったがここまできて引き
返せなかった。そのURLを
開くと画面は電源が切れた
かの様に真っ暗になった。
そしてしばらくするとその
画面に『WELCOME』と出て
きた。
「え、何コレ…?」
少し焦り始めてきた頃画面
にゆっくり人の形をした物
が現れてそれは画面の中に
映る少女だった。
「う、うぉっ!?」
その少女は長い髪をサイド
にまとめ、ロングワンピー
スを着て猫耳帽子を被って
ニコニコ笑っていた。
『こんにちは♪』
少女は爽やかに笑って画面
の中を飛び回った。
「誰だよ…何で携帯の中に
……」
この事態に見事俺の頭は混
乱した。
『あ、じゃあまず自己紹介
から♪私はヒーラギ。今回
は君に用があって来たの。
君は峯坂理緒で合ってるよ
ね?』
画面の中から話しかけられ
るのはスゴく戸惑ったがし
ょうがなく頷くとヒーラギ
と名乗る少女は嬉しそうに
笑った。
『そっかそっか♪探したよ
君の事。やっと見つけた〜
♪』
ヒーラギはふぅ、と安堵の
ため息を吐き地面に座った
。でもちょっと後悔もして
いた。よく不審者に自分の
名前を言っちゃ駄目だと言
われてきたし、もしかした
らこのヒーラギは悪いウィ
ルスでこのパソコンを乗っ
取ろうとしているのかもし
れない。だとしたら名前を
教えたのはまずかったか…
?でも相手は俺の名前を知
っていたしちょっとこれは
ヤバいかも…
『…?ちょっと君〜?何ボ
ケッとしちゃってるの?お
ーい!』
ヒーラギは画面いっぱいに
顔を押し付け画面を叩いて
いる。
「その、ヒーラギ?お前一
体何で俺の事知ってんだよ
。あ、てかもう電源切って
いい?」
電源ボタンに手をかけると
慌てて手を振った。
『やめてやめて!もう怪し
まないでよ!私はこの世界
では画面の中でしか生きら
れないの!』
「いやそんなの聞いて納得
出来る訳がないだろ!」
俺が言うとそれもそうかと
顎に手を当てて悩みだした
。
『ん〜、もう少し落ち着い
てから話そうとしてたけど
この状態なら仕方ないね』
画面の中で胡坐をかき指を
ビシッとこちらに向けた。
『吉木野恋夏。知ってるよ
ね?』
瞬間、背筋がゾクッと震え
た。
「な、んで…恋夏の事…!
」
『私は分かるのよ。恋夏と
君の関係も恋夏が三年前に
事故死した事もね?』
今までとは違う鋭く怖い目
線に息を呑んだ。
『恋夏に会いたい?少なく
とも相手はそう思ってるみ
たいだけど』
「会いたいってアイツはも
う死んでんだぞ?どうやっ
て会うんだよ」
俺がそう返してくると思っ
ていたのかすぐ答えは返っ
てきた。
『そんなの簡単。恋夏が居
る所に私達が行けばいい。
ただそれだけ』
「…!?そんなの出来れば
苦労しねぇよ!」
携帯にいる少女に怒鳴ると
ヒーラギは二ヒッと悪戯な
笑みを浮かべて画面に寄っ
てきた。
『恋夏も君に会いたがって
るよぉ〜?』
「う、嘘だろ…アイツはも
う……!」
『あぁ!物分かりの悪い人
だなぁ!だから恋夏に会い
たいの!?会いたくないの
!?』
少し間を空けて小さい声で
言う。
「そりゃ、会いたいよ。で
もそんなの出来ないだろ?
」
さっきよりヒーラギは不気
味に笑った。
『それが出来るとしたら?
』
「え……?」
ストレートに言われてつい
動揺してしまう。
『出来るんだよねぇ〜♪私
には。正直に話すと私がこ
っちでは画面の中でしか存
在出来ないのは私が向こう
の世界で存在するためにエ
ネルギーを沢山使っている
からなんだよ』
「エネルギー…?」
『そ。私は人の腹から生ま
れてないの。難しく言うと
人工的に作られた。そして
私は世界を作った。死者が
、まだ生きたかった死者が
住める世界を創造した。で
、恋夏も其処の住人にして
あげたの。恋夏は君に会い
たがってる。だから私は此
処に来た』
正直何を言っているか分か
らなかったがヒーラギの言
いたい事は俺をその死者が
住まう世界に連れていこう
としているのだろう。
「それよりも俺をどうやっ
て向こうに連れていくつも
りだ?まさかだけど俺を殺
さないでくれよ…?」
『あっはは!面白い事を言
うね♪残念だけど私には君
を殺す力は無いよ』
で、と笑いながら言う。
『ここからはあくまでも君
の意見を尊重するよ。どう
する?死者の世界に行く?
』
ニシシと笑い手をこちらに
出している。
「よく、分からないけど…
恋夏にあえるなら…行きた
いかも」
『ふふ。その返事を待って
たよ』
嬉しそうに言って途端、部
屋全体を激しい光が包み込
み一瞬意識を失いそうにな
る。
少しの時間が経過した。
もう何がなんだか分からな
くなっていた俺は反射的に
目を開けた。
「…!?何処だ此処…」
「お、起きたかな理緒君。
さて、今私達の目の前にあ
るドアを見てくれるかな?
」
さっきと同じ声がした。で
も先程の様な電子的な音声
は混じってなく綺麗なヒー
ラギの声がだった。横を見
ると携帯サイズだったはず
の身長は普通の女子の大き
さ、俺の肩くらいの身長に
なっていた。でもこの状況
だし俺が小さくなったのか
もしれない。
「ん?見るのは私じゃなく
て目の前のドアだよ?」
やけに変な言い方をされて
顔が赤くなったのを感じ言
われた通り目の前にあるド
アを見た。
「そのドアの向こうには恋
夏の居る死者の世界『ホォ
ニット』がある。準備はい
い?」