『我ガ眠リヲ妨ゲル者ハ誰カ…』
突然響いた声に、ゼシルは体を硬直させた。
「だ、誰かいるのか…?」
恐怖のせいか、声が上ずる。
『人間の男カ。チョウドイい、腹ガ減ッテイル』
「え?」
気付くと、目の前の箱が拳一つ分ほど開いていた。それと同時に、左腕の二の腕から下が歯形を残し、無くなっているのに気付く。
ゼシルは血を流しながら、地に崩れる。
『フム。ヤハリコノマまデハ動きズライな』
どうやら声の主は箱のようだ。声さえ出ないほどの痛みを感じながら、なぜか冷静に分析している自分に驚く。
『オイ、人間』
「な、んだ…よ」
意識が薄れるなか、必死に声を絞り出す。
『お主、死ヌノハ怖いだロウ?取引をシヨう』
「とりひき…?」
段々と箱の言葉が流暢になってきている。
『ソウだ。我はお主ヲ助ける。ソレと引き換エニお主モ我ヲ助けロ』
「じぶん…ら…しと…てなに…ってんだよ…。しょ…が…ぇ…」
ゼシルの意識はそこで途絶えた。
『ソレは了承の意ト捉えて良イのだナ?』
直後、箱は完全に開き、黒い霧のようなものが溢れだした。
「せいぜい利用させてもらうゾ、人間」
ゼシルを見下ろすように、一人の少女が立っていた。