ゼシルは箱に触れた。無くなっていたはずの左腕で。
………。
何も起こらない。どうやらただの箱のようだ。
と、その時。
『起きろ、バカたれ!』
「!!!??」
――――。
瞬間、ゼシルの意識は完全に覚醒した。
女性の声とともに、頭に鈍い痛みが残った。目の前に立っている女性の仕業だろう。
「何を呆けておるのだ?」
半身を起こした状態で、口をポカンと開けて凝視してしまうのも無理はないだろう。その女性はそれほどまでの魅力を持っているのだから。
全体的に細身で背が高く、腕を組む姿は様になっている。ややつり目がちで、細めだが妖艶な唇を三日月形にして微笑んでいる。なによりも腰まで伸びる黒髪が印象的な女性だった。
年の頃は20〜30くらいだろうか。一言でいうなら大人な女性だ。
何も言わずにいると、女は顔をスッと近付けてきた。思わず1歩下がる。すると女は距離を1歩積め、口を開いた。
「お主は今日から我の奴隷だ」
記憶に新しい話し方に、悪い予感しかしなかった。