瀬戸 千鶴。
桜華高校1年生、春。
私は今日もテニスコートを見つめていた。
「はぁ・・・」
大きなため息をつく。
今週は1年生の仮入部期間であり、
色々な部活を見る唯一の機会だった。
「千鶴〜?
やっぱりココかぁ〜」
斉藤 佳奈美。
小学校からの親友で、偶然高校も一緒だ。
「あ・・・うん。
やっぱテニスっていいね・・・」
佳奈美は困った顔をして口を開く。
「千鶴・・・
もう忘れなよ。
ホラっ!ここの学校って、
吹奏楽部も有名だよッ。
全国大会常連さんじゃんッ!」
「ぅ・・・うん・・・。
でも、もうちょっとココ、
見てていい?
後から行くから・・・」
「あぁ・・・そう?
わかった。待ってるね」
『忘れなよ』
佳奈美の言葉が頭をグルグルと
何回も駆け巡る。
なんでこうも簡単と言えるの?
忘れられるはずないじゃない。
私の気持ちなんて・・・
誰もわからない・・・
いつもこんな事を思ってしまう自分に、
嫌気がさしてしまう。
いつからこんなになってしまったんだろう。
私は、行き交いするテニスボールを目で追いながら、鮮明に残る記憶をかき回した。