暗闇に残されてアリスは一歩も動けずにいた。
しかし、しばらく立ちっぱなしでいると後ろから足音が聞こえてきた。
「…あら?」
足音は確かに人のものだがサラが走っていった方向とは逆だった。
「誰?」
そう足音に向かってたずねると、今度は走ってこちらにやってきた。
「アリスか〜?」
それはまぎれもなくカイの声だった。
「あら、その声はカイね。」
足音が近づくとようやくカイの姿が見えた。
「良かった。無事だったんだな。」
「サラが助けてくれたのよ。」
「そっか。」
カイが辺りを見回す。
「…そのサラは?」
「それがね…妖魔を追ってこの奥に一人で行っちゃって…。」
「よし、俺たちも後を追おうぜ!」
「もちろんそのつもりだけど…。カイ、何しに来たの?」
カイがムッと怒った。
「助けに来たに決まってるだろ!」
するとアリスがカイの体をながめる。
「手ぶらで?」
「へ?」
アリスに言われて自分の体を見ると、確かに手ぶらだった。
「あ…剣持ってくるの忘れてた。」
「おバカ!これじゃサラのお荷物にしかならないでしょう!」
「あ〜…なんつーか、わりぃ。」
カイは笑ってごまかすしかなかった。そして開きなおる。
「無いもんはしょーがねぇよ。さ、行こうぜ!」
強引にアリスの手をとり前に進む。
「はぁ〜…ホントに大丈夫かしら。」
「大丈夫だって!」
アリスの心配をよそにカイはどんどん奥に進んだ。進むと少しずつだが妖魔の叫び声が聞こえてくる。
「近いな。サラがいるかも…走ろうぜ。」
2人はとにかく走った。叫び声が近づいてくると、地面が揺れた。妖魔が暴れているのだ。
「見えた!あそこだ!」
妖魔は深手を負っていた。
しかしサラも肩から胸まで服が血で赤く染まっている。
「ガァァァ!」
妖魔が尾を振り回す。天井の岩が崩れた。しかしサラにふりかかることはない。
『青き水のしもべよ、全てを防ぐ壁となれ』
呪文と同時に水の膜がサラを岩から守る。
カイとアリスが駆け寄る。
「サラ、大丈夫?」
「平気」
そう言うがサラの肩から血が止まらない。顔も蒼白だった。
「ガァァァ!」
『清き水の子よ、刃となりて魔の者を切り裂け』
妖魔が動くより早くサラは呪文を唱えた。
刃が妖魔を切り裂き、ようやく妖魔が倒れた。
「すげー!ホントに魔法使いだったんだ。」
カイはアリスと同じセリフを言った。
しかし、妖魔が倒れたのと同時にサラも倒れてしまった。