逃げなければ。ゲルダは自らが奪った背嚢の中の至宝に思いを馳せた。
見る者の魂をうばう王国の秘宝、どこか安全な地に逃れてこれをためつすがめつして暮らすことができれば!
切なる願いがゲルダの体を再び駆り立てた。
彼は立ち上がり、廟の戸を開けた。まだ暗かったが、外は微かに朝の予感をはらんでいた。
気配を感じてふと振り返ると、童子の像がすぐ背後まで忍び寄っていた。その手には、先程までは持っていなかった短刀が握られている。
ゲルダはニヤリと笑い、童子像の胸を掌で強く推した。
童子の像を装っていた魔神はバランスを崩し、両手をばたつかせながら後ろ向きに倒れた。ゲルダはふたたび暗い森の中に踏みいった。
しばらく歩くと背後で物凄い音がし、振り返ると廟が跡形もなく消え失せていた。何かが天に上っていった。あの童子の魔神だなとゲルダは直感した。
彼はいまや、王国の宝だけではなく魔神の宝をも奪い、二者から付け狙われる身となったのである。
それでもゲルダに後悔はなかった。彼はどこか安全な地に逃れることができると信じていた。