「はぁはぁはぁ」
血が滴る包丁が小刻みに震えていた。息を乱している少年の足下には人が倒れている。
ピクリとも動かない物を見ている少年。顔についていた返り血と涙が混ざりあう。
包丁を持つことすら出来なくなったその時、ようやく血の床に膝をついた。
「あぁあ…………ぅあ゛ぁあぁあ゛ぁ」
もう後戻りはできない。
「ゲームの始まりね」
全てを見ていた少女が嬉しそうに笑いながら泣き叫ぶ少年を影から見ていた。
――ゲーム開始
少年の名前は来栖遠矢(くるすとうや)
「ど……うして……」
テレビを見て驚愕した。今日は昨日だった。頭が確かなら昨日を今日も繰り返すことになる。
そもそも家に帰った記憶がない。
自分が誰かを殺したのは夢だったのかと疑問を抱く。生々しい感触を思い出し首を振る。
今これが夢なのかもしれない。
でも確かめないといけない事があった。学校に行って生きているかこの目で見ないといけない。
身支度をすませ朝食も食べずに学校に向かった。日付は昨日と同じ15日。本当なら今日は16日。
電車に揺られボーっとしていると視界に存在感の強い少女が飛び込んできた。
同じ学校の女子かと思った瞬間、脳に声が響いた。
「来栖遠矢。あなたは人を殺したわ」
ビクッと身体をたじろかせ周りを見るが誰が言ったか分からなかった。フとさっきの少女を見る。
「誰を殺したか覚えてる?」
目が放せない。でもその少女は口を開いていない。この離れた距離なら大きな声じゃないと届かない。
来栖は今自分に起こっていることが分からず動揺していた。
「誰を殺したか覚えていないでしょう?でも誰かを殺したことは覚えてる」
「お前は……誰だ?」
来栖が小さく呟く。
「もう一度殺して。殺せたらこの一日から戻してあげる。これはゲームよ。私とても暇なの」
この一日から。
やっぱり繰り返されたのか。でもどうしてこんな事ができる。来栖が心の中で叫んだ。
「そんなことより『誰』を殺したか忘れたのでしょう?どうしたらいいか分かってるの?」
「えっ?」
少女は笑った。
「当たるまであなたは学校の『誰』かを殺し続けるのよ」
来栖は脳に響いた言葉に身体が冷たくなるのを感じた。
これが悪夢の始まり――