「眼鏡とって髪をおろせばいいのに」
挨拶すらしたことがないクラスメイトの男子が話し掛けてきた。多少の驚きのなか眼鏡に触れて応えた。
「顔を隠したいので」
コンタクトが嫌だとか眼鏡が好きだからと言う返事を予想していた男子はビックリした。
「変わってんね」
変わってるのはあなたでしょうと言う前に立ち去られた。ため息をつきたくなるのをグッと抑え授業の準備を始めた。
昼休み。友人にきいた所、名前は靖国忠彰(やすくにただあき)部活はしていなく生徒会や委員の仕事は手伝う人らしい。
「なら生徒会や委員をすればいいのに」
友人はそこまでは知らないと言うと話題が変わった。
モヤモヤとする男。関わらなければいいかと思った矢先の放課後。
「靖国忠彰…」
忘れ物を取りに戻ったら教室に残っていた靖国忠彰につい声をかける形になってしまった。何か書いていた手が止まる。
「なに?林桜子さん」
桜子は一瞬嫌悪を顔に浮かべると自分の机に向かった。
「桜子って呼ばないで下さい。私に似つかわしくなくて嫌いなんです」
「……そう?」
その態度にイラっとした。眼鏡をとれば髪をおろせば朝に言われた事も未だにイラっと残っていた
そんなことをして何が変わる。
でもこの男とこの感情のイラつきと価値観は関係ない。なにか言ってもそれは八つ当たり。
「……桜子って本当は姉につけることにしてたらしいの。でも一番はどうしても親がつけたかったらしいから二番目の私が祖父母の希望だった桜子になった」
姉につけてれば似合っていたのにと何百回も言われた。今では自分もそう思う。
「……林さんってさ」
声の近さに驚いて振り向くと気付けば近くに靖国がいた。身体を後ろに反り返し腕を盾にガードするような体勢になった。
「な……なに!?」
「ネガティブだよね」
にこやかに言われ呆れて桜子の口が開く。この男はいったいなんなんだ。
「靖国忠彰……」
「はい?」
桜子はキッと睨み付けるとビシッと靖国に指をさした。
「大っきらい!!!」
桜子はいい逃げて教室から掛け走って出て行った。残された靖国は笑っていた。
「桜色の着物で髪を下ろしていた時は可愛かったのに自覚ないのか」
眼鏡をかけていなかったから気付かなかったのかとポツリと言うと窓から見える桜子の後ろを見送った