ゲルダの声は暗かった。
「おれは罪を犯し、かの王国から追っ手を差し向けられたにんげんだ。おれに安住の地などはない。聞くが、この森の向こうに渓谷はあるか?」
女はうなづいた。
「その渓谷の近くに村があるんだろう?」
女はまたうなづいた。そして懐から三枚の銀貨を取り出して、ゲルダに渡しこう言った。
「渓谷の村でその銀貨を見せなさい。あなたに一晩の宿と湯気を立てるシチューを振る舞ってくれるわ」
ゲルダは戸惑っていた。
「ありがたいが、どうしてそこまでしてくれるのか、おれには分からない」
「分からなくてもいいわ。受け取って」
ゲルダは礼を言い、女から銀貨三枚受け取った。
ゲルダが銀貨を腰に結わえ付けた小袋に無造作に押し込むのを見て、青い髪の女は満足げに微笑んだ。
女はゲルダにうなづいて見せた。さあ、行きなさいという意思をこめて。そして森から渓谷へと抜ける方向を指差した。
ゲルダは礼を言い、歩いていった。
しばらく行くと、木々が徐々にまばらになってきた。いよいよ森を抜けるのだな、とゲルダは思った。
日はまだ高く、木々の間から渓谷の切り立った岩がわずかに見えている。
あの渓谷の中に村がある。そう思うとゲルダの心に黒い影が差した。
が、腹は正直で単純な腹でしかなく、くう、と嬉しそうに何度も鳴った。