気付いたら、あの曲はもう終わっており、
ノリの良いアップテンポな曲に変わっていた。
私はある楽器に目を惹かれた。
いや、楽器じゃない、人に惹かれた。
一際輝くあの人。
よくテレビで見るドラムをかっこよく叩いている。
生で見たの初めてかも・・・。
その人はなかなか端正な顔立ちをしており、サワヤカ系なスポーツマンって感じだった。
遠くから見ていたため、よくわからないが・・・。
私は曲を聴くのではなく、その人を見ていた。
そのためか、演奏はあっという間という感じだった。
帰り道。
佳奈美とまだ慣れてない電車に乗って、
地元へ向かう。
「演奏すごかったねー」
「そうだね〜。
千鶴は、なんか部活入るの?」
「え・・・」
答えられない。
別に特に入りたい部活なんて無い。
できればテニスがしたいけど、
もうそんなのできる体じゃない。
「まだ・・・決まってない」
「そっか・・・。
ウチはね、吹奏楽部に入りたいんだ。
ウチ、中学でも吹部だったじゃん?
またやりたいなーとか思って」
「そ、そうなんだあ・・・」
私の夢はもう絶たれてしまった。
好きなものはもうできない。
テニス以上に好きなものなんてないから。
これきり、二人は沈黙してしまった。
ガラスの向こうに写るネオン。
涙で霞んでよく見えない。
どれくらい経っただろうか。
私は寝てしまっていたみたいだ。
「着いたよ〜」
佳奈美の声で起こされた。
「ん〜」
重いまぶたをこすりながら、
立ち上がる。
「千鶴〜、しっかりしてよ〜」
ひょいと電車から降りる佳奈美。
私も続いて降りる。
「じゃ、ウチ今日塾だからこっちね。
千鶴、寝ぼけないでよ〜?
ばいば〜い」
「ばいば〜い・・・」
佳奈美は走って私の帰り道と逆のほうへ
消えていった。
私はゆっくりと歩きだす。
あのドラムの人が頭から離れない。