「おかしい。無人で飛んでいるのか?このデカブツは・・・」
戦艦『扶桑』への侵入に成功した龍雅であったが状況を開始して数分経過したと言うのに一向に会敵する様子はない。
ただし、侵入時に発出された警報音は相変わらず、けたたましく艦内にて共鳴する。
侵入口から通路を数十メートル進み、別の通路を進むためのドアに差し掛かった。連邦公国の標準的な航空戦艦は通常、侵入者が発生した際警報音と共に自動的に施錠、隔離をされる仕組みとなっている。例えそれが旧式のドアノブになっていてもだ。
龍雅はこのドアに接近、観察をしたところドアノブが脱落しかけている状態であり完全に施錠されていない、ドアそのものが通電していないことを確認した。
「・・・腐敗臭?なんだこの臭いは・・・念のため防護措置を取るか」
ドアの隙間から微かに感じる臭気にただならぬ状況を察知した龍雅は化学攻撃を想定し携帯用の化学防護服を直ちに着用した。そして、ドアを少しずつ内側に引き込みながら侵入を継続した。
「ぐ・・・臭いの正体はこれなのか!?」
フロアへ侵入するとそこは多量の蔦や樹木が廊下天井構わず所狭しと覆われており、その隙間を縫うようにして何かの生物が腐乱したような肉塊が散乱していた。その中には着衣、軍の作業時から人民服と思われる断片まで残されていた。
龍雅にとって、これらの肉塊がかつて"ヒト"を形作っていたことを想像するのは容易なことであった。
そして一部の植物からは黄色いガスが噴射されているのが確認できた。
人間がこのようなガスや臭気に直接暴露されたら体調に著しい変化を与えかねない。
龍雅は自身の装着したマスク、防護服は機能しているのだろうかと不安に駈られたが体調に変化があるとしても幾ばくかの猶予があると判断したためそのまま侵入を続行、慎重に床の足場を確認しながら進んだ。
「艦内の地図はしっかり記憶したつもりだったがこれでは・・・」
龍雅は軍人時代、一度乗艦したことがあるが指令室までの順路までは知らない。今回の作戦まで扶桑の内部構造は秘匿中の秘匿とされていた。
しかし、中を歩くと内部は崩壊し通行困難な場所が所狭しとあり、先の大戦からの修復は全くなされていないことを如実に現している。そこで龍雅の口から当然のようにある疑問が浮かび上がった。
「こんな状態でなぜ飛べる?」
侵入を開始して半刻が経過した。学名も付いていないような植物の上を着実に一歩一歩を噛み締めるように進む龍雅の足元が不快な浮遊感をもってうごめき始めた。