「はぁ、はぁ、ねぇ?本当に綾香なの?」
巨大生物からの逃走中、息を切らしながら結奈は綾香に尋ねた。
「結奈ちゃんの質問にうまく答えられるかなぁ?そう思っていると言うことはアタシに違和感があるからそう聞いてるんやろ?そうやんな?」
綾香は息を切らさず、表情を変えず答えた。
「はぁ、はぁ、だって綾香さ。ストライカーの操縦なんてどこで習ったの?運動神経もまるで別人。言葉づかいも完全にちがう!」
結奈は長距離の全力疾走と綾香の変化に対する混乱で疲弊しきっていた。
「結奈ちゃんごめん、かなり走らせてしまったね。その他の警備隊も近くにいないし・・・あ、そこ簡易シェルターあるな!休もう!」
綾香と結奈は放棄された簡易シェルターに飛び込んだ。
へとへとになりその場に座り込む結奈。シェルターを施錠し急いで電源を回復し備蓄品をかき集める綾香。
「丁度ええの見つけたわ。大丈夫、使えそう!これ吸って。」
綾香は結奈に酸素缶を吸わせた。結奈の努力様呼吸は改善の傾向が伺えた。
「ありがとう。綾香。」
結奈は大の字で地面に伏せていたが座れるようになった。そして綾香も両膝をついて結奈の前に座った。当然結奈はその座りかたにすら違和感を覚えた。以前の綾香であれば下着が見えることすら気にしないくらい、胡座をかくのが当たり前であったからだ。
「さっきの結奈ちゃんの質問ね。ショックを受けずに聞いてな。手短にいくで。」
結奈は改めて綾香の顔を見た。避難前とは違い、血色も良く目付きも良い。
「アタシは自分の名前、身内の名前とかは覚えていて他に、日常生活を送る上で支障のない生活知識と技能は覚えてはいるねん。だから結奈ちゃんは昔からの親友という認識もある。ただ、アタシがどのようにして結奈ちゃんと知り合いになったとかそういうエピソード的な記憶はないねん。さっき人が変わったとか言ってたやんな?」
綾香の問いに結奈は頷いた。
「アタシはさっきの戦闘より以前の思い出とかそんなんは全然ないねん。おそらくアタシ自身に何らかの治療が施される過程でそうなったと考えて。てか、なんか誰に指示されたわけでもないのに"そう説明しろ"と言われてる気がしてな。」
綾香は言葉を詰まらせた。そして深呼吸した。
「多分・・・、結奈ちゃんの記憶にある大庭綾香は死んだと思って相違ないやろな」