「アタシ・・・あんたのこと知ってる。峰崎・・・龍雅」
見覚えのないプレハブ小屋にて目を覚ました綾香は上体を起こし、側の窓を眺めた。特に変わった様子のない雑木林だ。続けてちゃぶ台越しに正座で座る青年を確認すると咄嗟に名前を思い出した。
「うぅ・・・体が痛い・・・何でこんなところにいるんやろ・・・」
綾香は逃走時に交換した人民服のシワやヨレを直すとちゃぶ台越しに龍雅と相対した。
「この場所はお互いの記憶に残っている場所を共有している。俺とお前がかつて行ったことがある場所と言えば分かりやすいか・・・」
綾香は龍雅の言葉で今存在する場所を思い出した。しかし、今この場にいる綾香自身では無く治療を受ける以前の内容の物であった。
「アタシ、あんたが知ってる大庭綾香とは違うよ?本人の意識は多分死んでる」
綾香の回答に龍雅は目を閉じ頷いた。
「・・・だろうな。そうでなければこのような共有は起きない。ここはおそらく俺たちをこんな風にした張本人の意識の中。そして何らかの結び付きで俺たちだけしかいない小部屋が作られたようだ。俺たちが無意識に作ったようにも感じる」
綾香は龍雅の話に耳を傾けながら部屋に入る以前の記憶を思い出していた。
「張本人って何なん?何か女の声で探したぞって言われてそこからぐちゃぐちゃになって・・・」
「そう・・・あいつ。ティンジェル・ガトナーが存命時に蒔いた"種"を刈り取られてしまったと言うことだ。お前もここに来るまでに俺と同じ治療を受けたことがある様子だな。」
綾香は心当たりがあった。以前龍雅に同行した後に数々の巨大生物からの襲撃を受け、恋人と離別した末に日常生活がままならないレベルにまで精神状態が悪化した。治療は当初、正規の方法に則って行われたが日に日に悪化し社会情勢の悪化と共に短期間でまるで別人と化した。見かねた綾香の保護者は主治医の提案により"特別な投薬治療"に同意した。という記憶を引き出した。
「説明では数多のパッチテストに合格した患者だけが受けられる治療と聞かされた記憶だけが残っているけど、つまりどゆこと?」
「俺やお前みたいな条件を満たした精神患者の治療をティンジェルは自分の復活のための養分にしようという話だ」