天使のすむ湖62

雪美  2006-09-24投稿
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主治医に話して、香里は翌日に退院することに決まった。月一回の検査と、また大木医師の往診をしてもらうことにした。
キヨさんが朝十時ごろミニクーパーで来て、一緒に荷造りをして支払いを済ませて帰ることになった。
 
湖の洋館に戻ると、うるさいくらいセミが鳴き、ひまわりが咲いていた。
ヨーロッパ調の家具と、赤いジュウタンが懐かしく感じた、病院の白い無機質な空間に慣れていたからだろうか。
香里は足が弱り、車椅子で帰ってきたが、それでもやっと帰った安堵感があった。
「やっぱり我が家は良いわねー」
香里は嬉しそうだった。ところどころの段差は、板などを工夫して、車椅子で通れるようにしてあり、多分キヨさんが改修を頼んでくれたのだろうと思った。
「そうだね、慣れた所の方が落ち着くよね。」
と俺は言った。
病院にいた頃はいつも切なそうだったけれど、これでよかったと俺は思っていた。
ベット周りも、香里が使いやすいように、綺麗に整理してくれてあった。俺はベットに静かに香里を寝かせた。
「本当に帰りたかった理由はね、一樹の肖像画を仕上げたかったからなの、病院じゃあれもダメこれもダメって言うばかりで、自由が無いんですもの・・・」
そうなのだ、確かに治療して治る人にはそれも良いかもしれないけれど、時間が無い人間にはただの束縛でしかないのだ。
「でも今日は退院したばかりで、疲れてるだろうからゆっくり休もうね。」
と俺が言うと、香里は素直にベットの毛布をかけて休むことにした。
「おやすみ、」
と俺は香里にキスをして、向かいのソファーで休むことにした。暑い日であったが、クーラーも効かせてあり、心地よい眠りに久々に付いた。
車酔いして吐くかもしれないと心配したが、そんなことも無くてよかったと安心したのだった。

あの出会いから約一年が過ぎていた。

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