彩握高校:一階・廊下
時:20止分。
(時が停止した中での20分後)
ただ、前を見る。
涙の止まらない目で。
前には、何もない。
マウスの死体はあのあと、ジェル状に姿を変え、蒸気になり、消えていった。
返り血を浴びた体も、今ではウルフの焦げ茶色に戻っていた。
ついさっきの事なのに、まるで数年前のように感じる。
龍一は何もない廊下で、壁に寄り掛かりながら座り、ただただ、前を見ていた。何も‥‥ない。
そう、何も‥‥‥
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
(‥‥‥俺は‥‥仇を‥‥取った‥‥‥はずだ‥‥‥なのに‥‥なんで‥‥こんなに‥むなしいんだ‥?)
自分で自分を問い詰める。何が原因なのか、何がダメだったのか。
頭の隅から隅まで思考をめぐらす。
しかし、解らない。
何度考えても、答えは出ない。
そして、龍一は一つの『真実』に、辿り着いた。
その瞬間、頬を伝う涙は勢いを増した。
【ツー‥‥】
(‥‥解った‥‥)
【ピチョッ‥‥ピチョッ‥‥】
(‥‥‥解っちまった‥‥)
【ピチャッ‥‥ピチャッ‥‥】
(俺が望んでたのは‥‥『仇』なんかじゃない‥‥‥本当に望んでたのは‥‥)
【ぼろ‥ぼろ‥ぼろ‥】
「アキラ‥‥『アキラが帰ってくること』だったんだ‥‥‥!!」
【ピチャン!‥‥ピチャン!‥‥】
悲しみの粒は、留まることを知らなかった。