それから毎日彼を目で追ってた。
食堂。
階段。
渡り廊下。
サーチライトのあたる夜の校庭。
体育館。
どんなに遠くにいても彼は目に付いた。
真っ直ぐ前を見て、背すじをピンと伸ばして歩いていたから。
最初は遠くから見てるだけで幸せ。
でもそれだけじゃ物足りなくなる。
そばに行きたくなる。
触れたくなる。
コレってきっと恋なんだよね。ウン。
そんな日が2ヶ月くらい続いたある日。
校舎が違う彼がアタシの校舎の方へ歩いてきた。
チャンス!!絶好のチャンス!
このチャンスを逃したらもう無いかもしれない。
アタシは精一杯の勇気ですれ違いざまに話しかけたんだ。
「セ、セ、センパイ!!おはようごじゃいます!!」
ヤベっ!噛んだ。
思い切り無視された・・・。
アタシと先輩しかその場にいなかったのに、チョット振り返るコトすらしてもらえなかった。
アタシが、コソコソ見てたの気付いてて・・。
キモイって思ったのかもしれない。
こんなことなら、話しかけなきゃ良かった。
告ル前にダメじゃん・・・。
サイアク・・・。
授業どころじゃなかった。
アタシ・・・。
思ったより、凄く好きになってたのかもだ。
そう思ったら、じわ〜って泣けてきた。
「まいったなぁ・・・」
それから2日。
アタシが失恋のダメージと戦っているときのこと。
クラスメイトの亜子が走ってきた。
「麻衣!知ってる??アンタの好きなあの先輩って・・・。耳聞こえないんだって!!」
「え?」
彼は、先天性の障害で耳が聞こえず、言葉も話せない人だったの―。