そっか・・・。
だからあの時全然こっち見なかったんだ。
嫌われてたわけじゃないんだ。
よかった。
アタシは、どうしても彼と話がしたかった。
見てるだけじゃ嫌だって思った。
彼は唇の動きを読めるらしい。アタシの言ってることは判るだろう。
でもそれだと、アタシは彼の言ってることが判らない。それぢゃダメ。会話ぢゃないからね。
だからアタシは手話を習うことに決めた。
忙しいバイトの合間をぬって手話教室に通い始めた。
高校に入って2度目の春が来る頃、
アタシは手話で会話できるくらいになった。
「コレでやっと話すことが出来る。」
アタシは、図書館に入ろうとする彼の肩を叩き手話で話しかけた。
「先輩。アタシの名前は、松坂麻衣です。どうぞよろしくお願いします。」
彼は、チョット不思議そうな顔をしたけど、
すぐに微笑んで手話で返した。
「僕は、ながさと こうです。アナタはなぜ手話ができるのですか?」
「先輩と話したくて、一生懸命勉強しました。仲良くしてもらえませんか?」
彼は、ちょっと笑って答えた。
「こちらこそ、どうぞよろしく。麻衣ちゃん。」
彼の手話は優しかった。
言葉ではないけれど、温かい手話。
優しい手の動きは、彼の心そのままだ。
もっと、もっとこの人に近づきたい―。
以降アタシは、彼を見つけるたびに手話で合図を送った。
「先輩。今日もHAPPYですか?」
「今日もHAPPYだよ。」