「見送りに行けないのは仕方ないけど、絶対夏休みになったら会いに行くよ」
学が納得してくれたのが少し残念のような気はするが、彼の意思が伝わり、自然に声が弾むと、明るく答える。
「うん、楽しみにしてるね」
「……」
「……」
無意識の内に机の上にあった時計をなんとなくチラッと見ると、電波時計の液晶はいつの間にか午前一時半過ぎを表示していた。
二人ともいつの間にか沈黙していた、最後に電話で何を話していいのかわからなくなったのか、自然と無言になっていた。
その時、携帯じゃなかったらとなんとなくもどかしくなり、思わず心とは裏腹に言葉を発してしまう。
「そろそろ、寝よっか?」
なぜか、さっき見た時計の事だけが脳裏に浮かんできてしまい、真っ白な頭にその言葉だけが無意識に浮かんだ。
「……うん。そうだね。明日の荷物の整理で忙しいよね」
少しためらいながら返答したが、明日の予定が空く事をさっきの言葉とは逆に期待して尋ねてみた。
「うん、明日が最後だから忘れ物ないかチェックしないと、日本での荷物も送らないとね」
学の期待する気持ちもわからずに莉央はハッキリと答えを下した。
学は答えを聞くと、完全にノックアウトしたようだ。
「そっか。それじゃ、オヤスミ」
「……おやすみ」
小さな声で呟くように答えた。
(何やってるんだろ、あたし。最後なのに)
恋愛に不器用で素直になれない自分が、はがゆくなんとも言えない感情に襲われていた。携帯を顔から離してボタンを仕方なく押して切ると莉央は机に力なく携帯を置くのだった。
「…………痛いな」