少し冷えた九月の風で目を覚ました。
昨夜の雨は嘘のように消えていた。
私は、昨夜何杯のコーヒーを飲んだのだろう。
結局、雨はなかなかやまなかった。それでも、彼は「やむまで」と言って帰ろうとはしなかった。
私も約束をした以上、破るわけにはいかない気がしたので、結局最後まで付き合った。
その間に、私たちが付き合っていた頃の事を教えてくれた。
なぜなのか私の記憶の中には、彼と過ごしたはずの時間が真っ白なノートのように何一つ思い出されなかった。
それでも、彼は「仕方ないですよね」と優しく困ったように言って、優しく笑った。
その笑顔だけが何故か遠い記憶の中にあった。
そして、懐かしい着信音で私は現実に戻された。
「もしもし」
「おはようございます。今日お時間いいですか？」
「いいも何も、この三日間の私の時間はあなたのものなんだから」
「なら、今日行きたい所があるんです」
「いいわよ。すぐ支度するから」
「分かりました」
そう電話を切ると、少しだけドキドキしていた。
デートで緊張を感じる自分が少しだけ恥ずかしかった。
それと同時にそんな自分が嬉しくなった。
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