「もう一度、考え直してくれないか?」
美佳は、何も答えない。
「頼む。俺には美佳が必要なんだよ」
「・・聞き飽きたんだけど」
やっと口を開いた美佳は、うんざりした表情を浮かべながら、グラスを置く。
「だから今までは本当に反省してる。これからは・・」
「もういい。浮気って直らないし」
「反省したから!」
正広は引き下がらない。
特に容姿がいいわけではないが、どことなく人なつっこい顔つきをした青年だ。少し小柄な印象だが、 がっちりした体格をしている。
「だから・・本当にもう一度、やり直してくれないか」
もう、最後のお願い!と必死な正広に、美佳は冷たく言った。
「私達、何も始まってないの。やり直すも何も、全く関係ないから」
正広は何も言えなかった。
確かにそうだ。別に恋人同士のケンカ話ではないのだ。
正広が勝手に、美佳に好意を寄せているだけである。しかし同僚達には、「彼女」と言い回っているせいか、同僚の前ではお互い「恋人」のように振舞っていた。美佳は、彼がどう言い回ろうが気に留めなかったが、二人でいる時にまで「彼氏面」してくる正広が、いい加減、厚かましかった。
しかし美佳にも、自分に責任があると分かっていた。当然、何度かは関係を持っていたし、彼の部屋に入り浸っていた時期もあったのだ。
美佳の付き合ってきた男の中では、一番セックスがうまかった。美佳が望む場所、体位をすぐに見抜いた。体が火照り、愛撫され、じらされながらも、「欲しい」と言えない美佳を知っていた。男を求めて、艶かしく腰を動かす美佳を、正広は何度となく夢中に抱いた。
「じゃぁ、これから二人で始めよう」
「もうお願い。友達として仲良く付き合っていこうよ」
「それじゃダメなんだ。俺は美佳と結婚したいと思ってる」
「だから、そう思って結婚して、前の奥さんと別れたじゃない。浮気してさ!」
美佳は、もういい加減にしてよ・・とつぶやき、正広を見て言った。
「お願い。あなたと結婚したいなんて、今後一切、思えないから」