魔人

モリタク  2005-12-21投稿
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魔人

昔、ある男が古い壺を自分の叔父の家の倉庫から見つけて、インテリアとして飾っていた。ところがある日、男がその壺を拭いているとき、誤って壺を落として割ってしまったのだ。すると、その割れた壺の破片がみるみるうちに人の形を作り、あっという間に自分の背丈ぐらいある人間になってしまった。
「おお、これはまさか噂に聞く魔人か? 隣の国ではランプを擦ると魔人が出てきたようだが、まさか壺を割ったら魔人が出てくるとはな」
「はい……確かに私は魔人でございます」
どういうことか、魔人には全く覇気が感じられなかった。
「おいおい、そんなやる気の無いことで大丈夫なのか? 頼りにしてるんですよ」
魔人は少し眉間にしわを寄せて男に顔を近づけた。
「何をですかな」
「もちろん、願いを叶えてくれることに決まっているだろう」
「ええ、それはもちろん叶えますとも。ですが、あなたたち人間は少しムシが良すぎるのではないのですか。自分の夢を叶えてもらえるだけで叶えてもらって、後は何もしないで楽しく不自由なく生きる。こういうのは、あなた達のためにも私達のためにもなりません」
魔人のいきなりの説教に、男は少し納得のいかない表情をしたが、仕方なく首を縦に振った。
「ははあ、確かにその通りかもしれませんね」
「だから、私たちが願いを叶える前に、あなた達にその代償を払っていただきたいのです」
何とも難儀な魔人と出会ってしまったものだ。しかし、その後に最高の楽しみが待っているのであれば。男はそう考えたのだった。
「一体、何をすればよろしいのですか?」
「何、そんなに心配な顔をしなくとも、代償は一つだけでよい。それにこれは極めて簡単なものです」
「なるほど。それは嬉しいことです。さあ、具体的に何を」
魔人は大きなあくびをして男の質問に答えた。
「私の体は壺と同じ硬さで出来ております。どんな道具を使ってもいいですので、私を粉々に砕いてください。そうすれば私はもとの壺に戻ることが出来ます。至極簡単な事でございます」
「……あの、なぜそんなことをするのですか」
「私、まだ百年ほどしか眠っていないのです。ですからもう少し、せめてあと四百年眠らせて欲しいのです。四百年後、また私を呼び起こしてください。そのときに、どんな願いでも三つ叶えてあげましょう」

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