見たことのない兄の険しい表情に、それ以上リシュアは何も聞けなかった。
「リシュア様、後でお話して差し上げます」
リシュアを抱いたダウェリーが微笑みかけそう言って、一行は更に足を早めた。
東、西共に国境では既に戦が始まっていた。
敵兵に対し数は劣ったものの最強の兵力を誇るフォルスの軍は劣勢にはなっていなかった。
南から本部隊であるエイファ王率いる敵兵が国境にさしかかった丁度その頃、フォルスの王も到着し両者は対峙した。
闇に無数の松明がパチパチと燃えて、辺りは明るかったが冬の訪れを運ぶ風は肌を刺し、一触即発の緊張感を一層増していた。
「エイファの王よ!使者も立てず、いきなりの進軍とは…余りに無礼であろう」
「侵略に使者など不要!フォルスの王よそなたの王位も今宵限りだ!」
松明に照らされ浮かび上がるエイファの王の顔は邪悪な笑みに歪みまるで魔物のようだった。