小学四年生の頃だった。
3泊4日の林間学校。
よくあることなのだが、就寝の時間が一番盛り上がる。
初日の夜、ある種の興奮も手伝い、僕たちは自分の好きなコを順番に言い合っていた。
寝ろ寝ろとうるさい体育教師を尻目に、僕たちの告白は途切れながらも続く。
「へぇー。そうなんや?じゃ、お前も南さんか??」
ヒロキが大はしゃぎする。
「そーや。うるさいやっちゃな」
本当にうるさい。
その時点で、僕には特に好きなコはいなかった。
しかし、こういう場である。
シラけるよりかはうるさいほうが幾分よかったので、それなりに考えた上で、ある女子の名を出した。
南さんだ。
親友の井上さんと一緒にいることが多く、わりと端正な顔立ちをした子だった。
僕は彼女とあまり話をしたことがなかった。
「ほんなら俺とライバルやな。そうか〜お前と争うことになるんか」
またもやうるさい。
結局ふたを開けてみると、他にも数人、そんなライバルがいた。
そして翌日の朝食の時間。
奇しくも、僕とヒロキと南さんは同じテーブルだった。
そもそも、井上さんも含むその四人は、普段から同じ班だったのだが。
昨晩のことは意識せず、僕は一日のエネルギーをもくもくと蓄える。
しばらくして、南さんが少し困った顔をしているのに気付く。
ヒロキはそれを見逃さない。
「どしたん、南さん」
「朝からこんなに食べれへんのよぉ…」
食べかけの大きな厚焼き卵を、切なげに見つめている。
「ほな、俺が食べたろか? あんま残すのもよくないやろうし」
まったく調子のいい奴だ。
「ほんまぁ?助かるわ、ありがとう」
ええっ。この場合ヒロキがありがとうを言うのであって…
ヒロキは、南さんの食べかけ厚焼き卵をひょいとつまみ上げ、笑顔でほおばる。
少し困惑する僕に、ヒロキは一瞬だけ横目を見せた。
お前には負けへんぞ。3泊4日の林間学校、これからが勝負やからな!
その目は、そのように語っていた。
…ような気がする。
続く