どす恋

けん  2006-10-05投稿
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小学四年生の頃だった。
 3泊4日の林間学校。

 よくあることなのだが、就寝の時間が一番盛り上がる。

 初日の夜、ある種の興奮も手伝い、僕たちは自分の好きなコを順番に言い合っていた。

 寝ろ寝ろとうるさい体育教師を尻目に、僕たちの告白は途切れながらも続く。

 「へぇー。そうなんや?じゃ、お前も南さんか??」
 ヒロキが大はしゃぎする。

 「そーや。うるさいやっちゃな」
 本当にうるさい。

 その時点で、僕には特に好きなコはいなかった。
 しかし、こういう場である。
 シラけるよりかはうるさいほうが幾分よかったので、それなりに考えた上で、ある女子の名を出した。

 南さんだ。

 親友の井上さんと一緒にいることが多く、わりと端正な顔立ちをした子だった。
 僕は彼女とあまり話をしたことがなかった。

 「ほんなら俺とライバルやな。そうか〜お前と争うことになるんか」
 またもやうるさい。

 結局ふたを開けてみると、他にも数人、そんなライバルがいた。

 そして翌日の朝食の時間。

 奇しくも、僕とヒロキと南さんは同じテーブルだった。
 そもそも、井上さんも含むその四人は、普段から同じ班だったのだが。

 昨晩のことは意識せず、僕は一日のエネルギーをもくもくと蓄える。

 しばらくして、南さんが少し困った顔をしているのに気付く。

 ヒロキはそれを見逃さない。
 「どしたん、南さん」

 「朝からこんなに食べれへんのよぉ…」
 食べかけの大きな厚焼き卵を、切なげに見つめている。

 「ほな、俺が食べたろか? あんま残すのもよくないやろうし」
 まったく調子のいい奴だ。

 「ほんまぁ?助かるわ、ありがとう」
 ええっ。この場合ヒロキがありがとうを言うのであって…

 ヒロキは、南さんの食べかけ厚焼き卵をひょいとつまみ上げ、笑顔でほおばる。

 少し困惑する僕に、ヒロキは一瞬だけ横目を見せた。

 お前には負けへんぞ。3泊4日の林間学校、これからが勝負やからな!

 その目は、そのように語っていた。
 …ような気がする。


      続く

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