衝撃の朝食を終え、僕たちは一旦部屋へと戻る。
ヒロキは妙に元気な様子で、朝食時の出来事を周りに話しだす。
「俺、南さんと朝から間接キスしてもうたわぁ〜」
鼻の下が伸びている。
伸びたまま戻らなかったらいいのに。
「ほんまけ?やるやんヒロキ。うかうかしとれんな」
ライバルたちは明らかに動揺しはじめる。
僕はひとこと補足してやりたかった。
半ば強引だったよ、と。
しかし、ヒロキは勢いづく。
「コクる時のセリフとかポーズ考えなあかん。この帽子は絶対いるわ」
取り出した帽子は、ウォークラリーの時にかぶるものだった。
何の兆しも前フリもなしに、ヒロキは帽子をさっと斜めにかぶり、つぶやく。
「南…燃えたろ?」
意味が分からない。
いや、正確に言うと意味は分かった。
当時そういうのが流行っていた。
格闘ゲームに出てくる、クールなキャラクターだ。
「ヒロキ…お前」
周りから声が漏れだす。
そうだ、思いきり小バカにしてやれ。
「かっこええ!俺もやろっ!」
…そんなバカな。
皆のテンションがうなぎ昇る。
ヒロキが何人もいるかのようだ。
僕はどうしたかというと…
やはりそそくさと帽子を取り出し、やった。
こういう場である。
シラけるよりかは幾分ましなのだ。
しかし、序盤から飛ばすヒロキ。
はじまったばかりの林間学校。
この二つを勘定してみて、どうしても嫌な予感を隠し切れない僕だった。
続く