天使のすむ湖77

雪美  2006-10-06投稿
閲覧数[449] 良い投票[0] 悪い投票[0]

「俺の方こそ、香里が一生懸命家庭教師をしてくれたから、医学部を狙える成績にもなれたし、最大の目標も出来た、感謝してるんだ。それに、愛する人のために尽くすのは当たり前だろう、俺に出来ることをしたまでだよ。」
そう言うと、香里の瞳からは涙が一筋こぼれていた。
「本当はね、こんなに見つめているのに、一樹の顔がぼやけてしか見えないの、肖像画を描き終えた頃からよ、視力が急に落ちて、こうして少しずつ失っていくのかしら・・・」
確かにこのごろ自分から外へは出なくなっていたのは、そのせいだと気が付いた。
「見えないなら、俺は目の代わりになるよ、説明が必要なら、いくらでも説明するから、紅葉は見えるの?」
俺は後ろに回り、抱きしめながら、聞くと、
「ぼんやりは見えるのよ、まだ完全に見えないわけじゃないの、よく顔を見せて」
俺はまた正面に回ると、顔を近づけた。すると香里から、引き寄せるように、首に手を回して口付けた。
「ありがとう、私のためにこんなにしてくれた人はいないわ・・・」
「愛した人のためなら、苦にはならないよ、出来ることがあるのが、嬉しいんだから・・・」
香里は俺の胸に頬をうずめて、涙にぬれて、髪を優しくなでていた。
どこからか緩やかな風が吹いて、キンモクセイの匂いがしていた。
「愛してるよ、香里がどんな姿になっても、愛してる」
そう言って、ぎゅっと力を込めて抱きしめた。
「私も一樹を愛してるわ・・・」
香里は絞り出すような声で答えた。
またふわふわとイチョウの葉が二人を包んでいた。
前に香里が言っていた。自然の草花には、全て妖精がいるのだと、見えるとしたら、今きっと妖精たちも照れながら見つめているのだろうと思った。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 雪美 」さんの小説

もっと見る

恋愛の新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ