半ば白くなった頭髪。
ガッチリとした体躯がスーツ越しからも伺えるその男、霧島敬二郎は俺と彼女、品川恵利花をフルネームで呼んだ。
エリカはミス・キャンパスだから合点がいくにせよ、俺、倉沢諒司を知っているのが腑に落ちない。
「なぜ自分を、と言う顔だね?倉沢君。
ま、君達ラットラーは業界で知られているとでも言っておくかな」
「そう云えば、スタジオミュージシャンで以前ウチにいたヤツいましたね」
「リョージ、それ、初耳〜! へぇー、すご〜い」
「まぁ、そんな訳だ。
ところで君達、これから食事でもどうかな?
…まぁその、ハハ…、水入らずでお楽しみなら年寄りは退散するがね」
遠回しにからかわれ、つい先程『お姫様ダッコ』の現場を目撃された事を思い出した俺は、カーッと顔が熱くなった。
「いやぁ、悪ィッすね。
雛、俺たちもお呼ばれしよか?なァ」
「いいの?… あ、でもヒナお腹すいたーっ」
「じゃ、僕達もついでにお邪魔しようか?麻紀」
「昭彦さんに全てお任せします〜」
いつの間にか、ハイエナの様にご馳走の匂いを嗅ぎつけた連中がヒョッコリ鼻を突っ込んできたのには、さしもの霧島も苦笑する。
「あら、敬二郎じゃない?珍しいわね、ウフッ」
「お前… メデューサ!」
驚いた様子の霧島にメデューサと呼ばれた手島美和は、意味深な微笑みを返す。
「また今度も試してあげようかしら?
…冗談よ。私は消えてあげるわ」
「そうして貰うと助かる。お前と、もう一度関わり合う度胸はないな…」
「あれ、ウチのオーナーとお知り合いなんスか?」
「ふむ、…まぁ、プライベートな事だ。 聞かんでくれ」
叩き上げの業界人といった感じの霧島が、美和の言葉にサッと顔色を変えた様子を見て、俺とエリカはつい顔を見合わせた。
(ちょっと、面白そう?)
(ああ、但し絶対に口を割らないだろうな)
ヒソヒソと囁き合い、二人で噂の主に目線を向けた。