「い、今……港に……るから」
「えっ、周りの音がうるさくてうまく聞き取れないよ」
――ブチっ。
「ツー・ツー・ツー」
「切れちゃった。学くん、なんだったんだろ?」
仕方なく荷物を持ち、搭乗手続きをするのに向かおうと、携帯を切り、イスから立ち上がろうとした瞬間、名前を呼ばれた気がして、周辺を確認しながら立ち上がる。
「ハァ、ハァ……」
そこには、息を切らしながら学が立っていた。彼はゴクリと喉を一度ならし、喉を潤してから莉央の名前を呼んだのである。
「莉央ちゃん」
その顔からは汗が流れ落ち、腕で流れる顔の汗を拭うと、学の体からは汗が噴き出している事が確認できた。
その瞬間、莉央の表情は見る見るうちに変わり、口を両手でふさいで、嬉しいような驚いたような表情で目の前にいる学をただ、ただ、見つめる事しかできなかったのだ。
「莉央ちゃん?」
「……」
あまりにも突然の出来事でひどく驚き過ぎて、学が呼びかけてくれているのに声が出なく沈黙している。
一度、後ろに振り返っては深呼吸をして、心を落ち着かせる為に、懸命に心の中で自分に言い聞かせるようにブツブツと何かを莉央は唱え始めたのである。
(莉央、落ち着け、落ち着け)
そんな時に学の脳裏には不意に浮かんできたのである。
『ホントは別れたいんじゃないのかな』と言われた事を思い出したのだった。
由香の言葉を思い出すと急に不安に襲われる。
(ある訳ない、そんなことないよ。莉央ちゃんはそんな人じゃない)
由香の言葉を必死に振り払うかのように心の葛藤を静めようとしていた。
気を取り直し、莉央に再度声を掛けてみる。
「莉央ちゃん!」