「魚が全然釣れなかった池で、魚が急に釣れだすようになったんだ」
釣り師がいう。
「なんでだと思う?」
この場合の魚とは、ブラックバスを指すのだろう。 事実、我々は何度かバス釣りを共にしたことがあった。
今日もこれからどこかの池に行こうとしていた。
僕は考えるようなふりをした後、自信なげに答えた。
「釣り方をがらりと変えたんだろ。簡単なことさ」
「そういうことじゃない。そうだな…池、または池周辺の環境が、あることがきっかけで変わったんだ」
これはなぞなぞなのか。意味がわからず、少しもどかしくなる。
「豪雨かなんかで、池の構造が変わった。それでその、魚にとって良い環境が…」
「ちがうよ」
釣り師が僕の言葉をさえぎる。
「わかった、お手上げだ。それより早く行かないか。日が暮れちまう」
だんだんイライラしてきた。
最近僕は、不調続きだったのだ。
「死体があがったんだ」
釣り師がいう。
何気ない表情で。
「それから誰もその池に寄りつかないんだよ。魚の警戒心もすっかり消え失せちまってるんだ。釣れるぞ〜」
釣り師の釣り師っぷりに、僕は少し舌を巻いた。
「どこかの釣り人が偶然にも釣り上げてしまったらしいんだがな」
釣り師はそう続ける。
「もうこんな時間だけど大丈夫かな」
僕は不安になってきた。
しかし今日の本命魚であるブラックバスは、夕方〜夕暮れ前によく釣れだす。
「お前は最近不調が続いているらしいし」
時刻は午後6時過ぎ。
「今からその池に行ってみようか」
「嫌だと言ったら…?」
僕は聞いてみた。
「お前も殺して、池に投げ捨ててやろうか」