辺りはすっかり暗くなっていた。
先生の誘導のもとに、ぞろぞろと生徒たちがついていく。
周りには田んぼや雑木林があり、まさにきもだめしにはうってつけの環境だ。
僕はこういった時、よく考えてしまう。
たしかに小学生の夏の夜といえばきもだめしである。
先生たちにしても、生徒を驚かすことで何かしらの快感が得られよう。
しかし万が一オリジナルが出た場合、一体どうするというのだ…
前に家族で行った遊園地でも、そんなふうだった。
もしこのジェットコースターが爆発でもしたら…
ばかばかしい。
今はきもだめしより、ヒロキの行動を恐れるべきなのだ。
こいつは南さんに何をしでかす気でいるのか…
順番に、生徒たちがきもだめしに送りこまれる。
何分、あるいは何秒かおきに、大きな悲鳴が聞こえてくる。
「なんか怖くなってきたぁ」
南さんが泣きそうな声でいう。
すかさずヒロキが応える。
「大丈夫、俺が先頭行くし!一番前と後ろは男で固める!」
ちっ。ヒロキが。
そしてとうとう、我々の班の番がやってきた。
班員は僕、ヒロキ、南さん、井上さんの4人。
よし、みんな出発だ。
…
とはいえ…
やはりそれなりに怖い。
妙にガサガサと音がするのは、間違いなく先生だ。
決してホラーではない。
わかっている、わかっているのだが…
ヒロキよ、お前は今どんな男前を南さんに見せつけているのだ――僕は心の中で叫ぶ。
すっかり一番後ろにいた。
「ちょっと〜!はよ前行きぃやぁ」
井上さんがヒロキの背中を押す。
「あひぃん」
補足だが、ヒロキは小太りな男だ。
出発前の勇姿は見る影もなかった。
かくいう僕も、さぞかし情けない姿だったろう。
まぁでも、本当に怖かったのだ。
「かっこ悪いとこ見せんといて!」
ふいに、そう言って南さんは僕の背中を押す。
なんだこの気持ちは…
たとえお化けやチュパカブラが飛び出てきたとしても、その瞬間だけは動じなかっただろう。
南さんの柔らかな両手が、背中に触れている。
初恋だった。
終わり
【後日談】に続く