彼が隣にいることの心地よさを、私は何かあると訪れる寂れた地元の動物園のように感じていた。
それは、自然な感情でその感情に名前も付けれなければ理屈とかそう言う類の物では言いあらわせれなかった。
ただ、九月の風がより私の好きな物になっていた。
「何を食べたい?」私は、静かに聞いた。彼は決まって同じ答えを言う。
「何でもいいですよ」
そう言って、優しく微笑む。
私は、不思議だった。なぜ彼の記憶が此処までないのだろうかと。いくら、恋愛をゲームだと思っていた私でも人の事をここまで忘れていることはないはずだった。
ただ、それを私の口から聞くことはタブーな気がした。
そして、それがそこまで重要なことだとは思わなかった。
私達はどこへ行くでもなく話しながら歩いた。
ふたつ並んだ影は、ぎこちなく並んでいた。
ただ、彼がそっと私の手を握ってくれたので私もそっと、優しく彼の手を握り返した。
ただ、それだけのことなのに何故か心に何かが満ちていくみたいに感じた。
ふたつ並んだ影は、さっきよりも近づいてよりぎこちなく見えた。