「まぁ、…好きな物を頼んでくれたまえ」
霧島敬二郎の奢り(半ば強引に?)で俺たちは各々のパートナーを伴い、テーブル席に収まった。
「ふぅむ、……。
君達、タレントとかに興味は無いかな?
いや、…三人共非常にいいものを持っているんでついね。 気にせんでくれ」
霧島は商売柄、これと思った者には無意識に芸能界の話を振ってしまう様だ。
「あははっ!
やっぱ『リョージ伝説』って本当だね♪」
「わたし、まだ倉沢さんとエッチしてませんよ〜?」
「ま、まだ?…麻紀ってば超ダイタンーッ!」
「…ほほう、倉沢君はそんなに手が早いのかね?」
「ケダモノですから」
「昭彦!テメッ、誤解招くだろが、んな事言ったら!」
「でもよ、恵利花ちゃんと付き合い出してから他の女連れとらんで?」
「ホント? むふっ♪嬉しいかも〜っ」
「…何とでも言え」
一見、和やかな雰囲気の中、俺たちは滅多にありつけないイタリアンに舌鼓を打つ。
ただ、客商売を長くやっている昭彦と俺はコッソリ目配せし合っていた。
いくら笑顔でカムフラージュしようと、霧島の目は決して笑ってはいない。
それは時折、隠された意図がチラリと顔を覗かせる様な強い光を帯びていた。
(このオヤジ、どうも信用出来ねーな……)
俺は、同様に油断も隙もない峠昭彦と目で頷き合い、何食わぬ顔で雑談に加わっていった。
昭彦は、虫も殺さぬ笑顔でバンドのリーダーだった俺達を次々に引き抜いていったやり手である。
唯一生き残ったクワトロも、今だにギタリスト不在の憂き目を見ているのだ。
「あの人は、油断出来ない方ですね。
視線が常に泳ぐ人は誠意が無いっていいますよ〜」
「でも、美味しいお店いっぱい知ってそうね」
「あはは、ヒナって食い気ばっかじゃん」
流石、昭彦のお眼鏡にかなっただけあり、麻紀の聡明さが光る。
後の二人はまぁ、……天然素材って事で…。