私達はどちらが言うでもなく、いつもの待ち合わせのカフェに向かった。
「今日、どこかへ行きたかったんじゃないの?」私は、彼に聞いた。
「いや。今日でなくてもいいよ」彼は、いつもの優しい笑顔で返した。
「そう…今日はありがとう」
「どうしたの?」
「私のいきたい所へ行ってもらって」
「いや。楽しかったし」
「ありがとう」
「君らしくないな」そう言って、微笑んだ。その笑顔は今まで見たことがない、愛しい笑顔だった。
私は、少しだけ悲しくなった。それが何に対してなのかは分からなかった。
「でも、他人の作った智沙希でいることはない。君は君でいたらいいんだよ」
涙が出そうになった。目頭が熱くなるのを感じた。
私は、彼を見つめていた視線を無理矢理剥がして、食べかけのパスタに目をやった。
それと同時くらいに涙があふれた。
「智沙希は、頑張るからね」
彼の優しい言葉が、私の頭を撫でるようだった。でも、顔を上げられなかったせいで彼の表情は分からなかった。