「ふざけないで・・・」
榎音は小さい声で言った。
「えっ?」
「ふざけないでよ!」
榎音は立ち上がって言った。それを見た看護士は、少し慌てている。そして、なんとか榎音を座らした。
「私は早く死にたいんです。健康な体なんてほしくないんです・・・」
その榎音の言葉を聞いて、医師は静かに言った。
「榎音ちゃん。そんなこと言ってはいけないよ。キミを生んでくれたお母さんに失礼じゃないか」
「・・・」
「とにかく、今日退院していいよ。心奈ちゃん達に電話しておくから」
医師は、そぅ言うと机の上に乗っている紙に何か書き始めた。そして、榎音は部屋に戻った。
数時間後、心奈達が榎音を迎えに来た。
「榎音よかったね」
心奈は嬉しそうに言う。
「そぅだね」
榎音はニッコリ笑って言った。
『お母さんに失礼じゃないか』
その言葉が頭から離れず、ずっとその言葉だけが繰り返されている。
(お母さんなんて、どんな人だか覚えてないし・・・)
榎音の母親は、榎音は2歳のときに死んでしまった。治っていたはずの病気が再発した。と、父親から聞かされていた。母親の顔は、物心つく前だから全然覚えていなかった。
「お世話になりました・・・」
そぅ言って、病院から去った。
「よっし。今日はごちそうだからね!」
「いいよ。そんなことしなくても」
そんな事を話しながら、歩いて家へ向かった。家につくと心奈はドアを開けた。
「待っていた・・・」
家の中にいたのは、見知らぬ女の人だった。