｢おまかせしまっす！｣
やたら硬質な声調で､少女が言った。少女の声をもし具現化できたら､まるで岩から切り彫りしたような､カチカチの文字列が視認できることだろう。要するに、少女は緊張しているのだった。
｢はぁ｣
少女とは対照的に､スタイリストは弛緩している｡語尾に疑問符を付け足したいくらいだが、それは野暮というもの。腹八分目で止めてみるところが、さすがプロフェッショナルといった具合だろう。余裕と呆れが程よくミックスされている｡それがスタイリストの状態だった。
｢さとり、シザース｣
｢はいなー♪｣
スタイリストの指示を受けて、アシスタントはハサミを取った。少女とスタイリストが醸し出す微妙な空気を緩和しようと、少しだけお茶目してみたが、まったく何の効果も得ていない。寧ろ、ふたりの空気に溶け込んでしまって､声どころか存在自体が埋没してしているかのようだ｡ちょっぴり寂しい存在。今のアシスタントのスタンスである。
そんな三角関係の中､作業が始まった。スタイリストの軽快なハサミの音が、スタジオに響く。その音に合わせるように、少女の黒髪がはらはらと落下した。少女の態度とは違い、髪は柔らかい。床に接する度にそのどれもが､ふわり､と一度しなった。
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