「ふぅ・・一休みするか」
黒く腰下まである長い髪を、後頭部の高い位置で一つにまとめ、白と黒の着物を来た男はゆっくりと石の上に腰をかけた。
「日が暮れるまでには村につくな」
男は赤い瞳を細めて、山の麓にある村を小高い丘から見下ろした。
笹の葉に包まれたおむすびを、一つ手にとり腹の中におさめると、両膝に両手を付きながら重い腰を上げ、立ち上がり男はまた歩き出した。
「やっと村についたか」
男はあれから山道を数時間歩き続け、何とか日が暮れるまでに村にたどり着いた。男は辺りを見渡して宿を探した。
(??・・やけに人気が少ないな)
「・・おっ!!ここがこの村の宿か」
村唯一の宿屋につくと男はゆっくり戸を開けて中へと入った。宿屋の主は男を見て目を見開いた。
「申し訳ないが部屋を一つ貸してもらいたいんだか」
「ああ・・旅人さんかい??」
宿屋の主は男をじろじろと見た。男はゆっくりと頷いた。
「すまんが今部屋はいっぱいなんですよ」
「!??」
「悪い時期に来たもんだ。署長様がおいでなんだよ」
「署長ですか??」
「ああ、ここだけの話なんだがね・・」
宿屋の主は辺りを見渡して誰もいないのを確認すると男に近づき小さな声で話出した。
「ここの署長様は大変野蛮な方なんだよ。逆らう者・・いや、気に入らない者は皆殺しさ。旅人さんも見ただろ??署長様がおいでになるこの時期だけは村人は外をうろつかなくなる」
「だからやけに人気が少なかったのか・・。理由は分かったんですが、今晩泊まる所がなくて困ってるんです。どこか泊まれる場所はないですか??」
「そうだね。旅人さんには迷惑かけたし、・・ある娘の家が近くにあります。そこに行き事情を説明してごらんなさい。何とかなるかも知れません。・・だだしあまりお勧めはしませんがね」
「娘ですか??・・分かりました。ありがとう」
男は宿屋の主から娘の家を標した簡単なメモを受取り宿屋を出ていった。