これは第一次世界大戦集結後のイギリスの事件だ。
深夜一人の男性が仕事から帰り家の中に入ろうと鍵をさがしていた。ここの主人のヘンリーである。
ヘンリーは鍵を探している、背後に鈍器を振りかざしている男がいるとも知らずに。
男は鈍器をヘンリーの頭目掛けて投げつけた。ヘンリーが倒れ込み動かなくなった。
翌日、警察が調査を行ったところ目撃者はななかった。犯人が現場に置き去りにしていた鈍器はガラス製の置物でかなりの重さがあり、すこしかけていた。
その置物からは二人の指紋が検出された。
指紋は隣りに住むスピニード夫妻のもだった。
二人に聞くと婦人は自分が夕方に仕事から帰ってきた時にはその置物はまだあっと証言した。
次の日警察はスピニード夫妻の家を尋ね、でてきた夫を逮捕してしまった。
理由は夫のアリバイがないことと、ここ数週間被害者のヘンリーが育てている花にやった水がスピニードの家に流れてくるというものだった。それだけのことだが二人は顔を合わせる度に衝突していた。
そして数か月後、事件の裁判が行われた。
検察側の審問が始まった。「事件があった当日、あなたはどこにいましたか?」
「覚えていません」
「覚えていない?そんなはずはないあの日のことはあなたに強烈な印象を残したはずだ。」検察官は大袈裟に手をあげて言った。「もう一度聞きます。あなたはどこにいましたか?」
「覚えていません」
「そうですか!これはこれは、あなたは事件が起きても気になさらないようだ!」そういうと検察官は審問をやめた。
傍聴席で聞いていたワードレ警部はなにか納得がいかなかった。
おかしい、これではまるで逮捕されたいようではないか。もう一度事件を洗い直すか。
そうして警部は事件の再調査を行った。
理由はふたつ。ひとつめが裁判でのスピニードの曖昧な受け答えの意味。ふたつめが事件現場に置き去りにされ、まるで犯人を誇示していたかのようなかけたガラス製の置物だ。