絢:【最近どうなん?】
梓:【何が?】
絢:【いいことあった?】
梓:【皆無だね(笑)】
午後の授業は、先生が私語にうるさい講義。梓は仲良しのクラスの女の子、絢と筆談をしていた。
絢:【ほんっと、梓って男っ気ないよね】
梓:【絢もたいがいやない?】
二人のクスクスという笑い声が、静かな教室に響いた。先生は話すのを止め、じっとこちら側を見ていた。
「そこ、聞く気ないなら出てってくれて構わないから。無理してここにいる意味はないぞ」
絢:【またあとで話そう】
二人は顔を見合し、講義が終わるのを待った。
退屈な講義が終わって、梓と絢は談話室に行こうとしていた。するとちょうど同じクラスの男子である工藤晋也が、後ろから声をかけてきた。
「手塚さん、ちょっといい?」
絢はその瞬間、気を使って先に談話室に行ってくれた。晋也はバスケ部で、密かに梓が憧れを抱いていた人物である。しかし、恋愛に奥手な梓は入学して今まで晋也と挨拶程度しか言葉を交わしたことがなかった。そんな晋也から、話しかけられて梓の心臓はバクバクと脈を打っていた。
「手塚さん、確か現代法学取ってたよね?」
「うん。」
「俺、あんま授業出てなくて、よかったらノート、コピらせてくんない?」
「字とか汚いけど、いい?」
「全然いいし。」
「うん。だったらいつでも貸すよ。」
「まじ助かる。なら、連絡取りたいし、アド教えてよ。」
「いいよ。」
梓はぎこちないながらも、晋也に自分のアドを教えた。
「またメールするな。ありがと」
晋也は笑顔でお礼を言うと、梓の元を去っていった。梓の心臓は未だバクバクとしていた。