「ねぇ品川さん、白状しなさいよ! あの男の人、彼氏なんでしょう?
すっごいカッコ良かったじゃない」
「え、…日野先輩も見てらしたんですか?」
「まるで映画のワンシーンみたいだったなぁ…。
姫のピンチを救う王子さまって感じ?」
「あはは、アイツが? かなり間抜けな王子さまですよね〜」
キャンパスの構内を、先輩の日野知美と歩きながらお喋りしていた品川恵利花は、ふとこちらに向けられている視線を感じた。
「あなたが恵利花さん?
諒司の、今の彼女ってわけか…」
「失礼ですけど、どちら様ですかぁ?」
「あ、ゴメンなさい。
先に名乗るのが礼儀よね。私は桜木エミリ。宜しくね」
「ええ!…あの、モデルの桜木さんですか」
「うっそーっ、品川さん、お知り合い?」
噴水の前に立っていた人物は、ファッション界を席巻した一流モデル、桜木エミリであった。
眼鏡をかけ、お下げ髪にしていたが、不思議な位に存在感がある。
「うーん、あいつの噂は聞いてる?
って言うか伝説ね、アハハ!」
「はい、…もしかして、桜木さんも?」
「そ。 どうやら私が第一号みたいよ」
まだ講義の残っていた日野知美と別れた恵利花たちは、大学から少し離れた場所にある喫茶店で倉沢諒司の秘密を話題にしていた。
「あのさ、…恵利花さん、ちょっと腰に片手置いて立ってみて?」
「え?こう…ですか」
「あなた、ウエスト何センチ?」
「52センチですけど…」
「うん! 気に入った!
あなた、私と一緒に仕事やる気ある?
返事は後でもいいけど」
「ええっ!…あたしがファッションモデルに?」
「恵利花さんスタイル抜群だし、何よりも凄く『存在感』ってモノがあるの。
それって、一流になれる第一条件なのよ」
「急に言われても…」
まさに詰め寄る程の勢いで情熱的に口説いてくる桜木エミリに、さしもの『動じない女』品川恵利花もタジタジとなっていた。
プロの迫力…。
その一語に尽きる。