目の前に大きな港がある。月は夜の闇の中で青白い光を放っている。
その時、僕はベンチに座って水面を眺めてた。月の光が不規則に反射する。
どこかから僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ずいぶん遅かったじゃないか」僕は振り向いて言った。「今が何月だかわかってるのかい」
「1月」その通りだった。
1月の寒さは僕らの関係を冷たいモノにした。
いや、と僕は思う。今が真夏だとしても同じ結論だったさ。
つまり、僕らは別れの危機に直面していた。というか、それは危機でもなんでもなかった。
僕は初めから彼女と長く付き合う気はなかったし、彼女は僕の事が嫌いだった。
たとえ短い期間にせよ、なぜ我々が同じ時間を過ごしていたのかは、誰にも解らなかった。
彼女は自分の鞄の中からある物を出し、それを僕の方へむけた。
「僕の事が嫌いだから?」試しに聞いてみた。答えはわかってる。
「ええ」
嫌な汗が背中を流れる。
僕はどうすればいい。
死を詰め込まれた冷ややかな鉄の塊が僕の方をむいてた。
辺りは静かで、腕時計の秒針だけが、その静寂を乱していた。