僅かに抵抗する伊織姫を自分の懐に抱き寄せた帝は、姫が逃れられない程度に腕に力を込めて抱き締めました。
そして姫の耳元についと口を寄せると、低く優しい声で「貴女は美しい…。これは私の本心からの言葉だ。正直に言おう。確かに私は最初、酷い醜女がいると言う噂を聞き、面白半分で貴女を私付きの女房にと望んだ。」と正直に言いました。
するとそれを聞いた伊織姫の微かな抵抗が止み、消え入りそうな声で「貴方が…帝…。」とだけ呟き、それきりじっと動かなくなりました。
帝はそんな姫の様子を気遣いつつ話を続け、「しかし──それは間違いだったと気付いた。貴女が気付かせてくれたのだ。愚かな私の目を…醒まさせてくれた…。」というところまで言うと、姫を抱き締める力を緩め、姫と正面から向き合う形を取りました。
そして、伊織姫のうるんだ瞳を見つめ、「もう一度…。いや、貴女が承知してくれるまで何度でも言おう。…──私の妻になってはくれまいか…。」と言いました。
その言葉に姫はビクッと震え、帝から目をそらすと、それきりうつ向いてしまいました。
そして帝がそんな伊織姫の栗色の髪に、愛しそうに口づけを落とそうとしたとき…──突然、姫の後ろから、底冷えするような低く冷たい声が聞こえてきたのです。
「…──冗談じゃない。」