男は素晴らしくハンサムだった。
長身で小顔だったし、目鼻立ちも美しかったため、多くの女性を魅了した。
そんな男の、とあるデパートでの話。
「オー!コノクツイイネ!スゴクキニイッタケド…オカネガ…」男は高級ブランド靴に目を落とす。
「うんうん。とてもあなたに似合ってる!いいわ、買ってあげる」女はとても上機嫌な様子だ。
(へへ、ラッキー♪)
男はいつも思う。
日本の女性はつくづく外国人男性に弱いものだ、と。
今日も適当な女性を見繕い、その心の隙へと滑りこんでいく最中だった。
その時、男はある異変に気付く。
目の前に並べられた靴がカタカタと動いているのだ。
「…ン?」
突然の出来事だった。
ガシャン
店内が急に大きく揺れだし、花瓶のようなものが床に落ちる。
人々の顔に明らかな動揺の色が浮かびはじめた。
「地震だわ!!」
女は必死の形相で男にしがみつこうとする。
「うっわ地震やん!コレほんまもんの地震やがな!!ここデパートの五階やろ?あかん俺終わった…もうあかんわ」
男は早口でまくしたてた。
女は一瞬あっけにとられたが、なんとか言葉をしぼり出す。
「あなた…日本人だったの?しかもコテコテの関西弁…だましたわね!!詳しい話を聞かせてもらおうじゃないの」
地震は一分もたたないうちにおさまった。
そして男の人生は継続する。
少なくとも今日は長い一日になりそうだった。